「ゾウのいない動物園 -上野動物園 ジョン、トンキー、花子の物語-」(講談社 青い鳥文庫)2010年8月



イラスト 真斗さん
撮影 田丸瑞穂さん

太平洋戦争のときに、上野動物園で殺された「ゾウの花子」の物語です。
絵本などで有名ですが、今回、あらためて資料を調べていくと、
殺されたのはゾウだけでなく、「猛獣」とされた27頭もの動物たち。
しかも、そのあまりにもむごい殺され方に、愕然としました。

21世紀の今のように、だれもが自由に意見を述べることができなかった時代。
戦争に巻き込まれた飼育員さんたちのつらさは、想像を絶するものだったと思います。
救命救急の取材のなかでは、ひとつの命を救うために、
ものすごく多くの人が必死になっているのに、
戦争は、あまりにもあっけなく、人を、動物を殺してしまう。
その矛盾に、やるせなくなります。

ゾウの取材は、上野動物園でさせていただきました。
灰色の皮膚は冷たそうに思えるのに、ふれたときに暖かくてびっくりしました。
本文中の「菅谷さん」の「発見」は、私自身のものでもあります。
アメリカの戦闘機が東京上空に飛来した描写は、
ドクターヘリに同乗取材させていただいたときの経験を活かすことができました。
ヘリだけでなく、空と飛行機にも詳しい、ドクターヘリの機長さんに、
細かい情報を教えていただき、
取材もやはり、人間関係が身を助けると、改めて感じました。

歴史が苦手で、戦時中の記録など、あいまいなまま草稿を出しましたが、
講談社の校閲さんチームに、すばらしく正していただき、
著者のところは「講談社:校閲班」と、連名にさせていただきたいくらいです。
ノンフィクションと言いつつ、苦手分野での取材力のなさを反省するとともに、
この本を世に出すために、力を貸してくださったすべての方に、感謝します。

子どもむけの本なので、なるべくつらい描写は避けようと思ったものの、
「殺さなければならない」事実は、どうしようもなく、読んでいて気が重くなる部分もありますが、
真斗さんの、あたたかいイラストで救われます。
とくに、目次のすばらしさは圧巻で、ぜひ、お手にとっていただければと思います。