新訳 名犬ラッシー(講談社 青い鳥文庫)2017年7月


原作者:エリック・ナイト   訳者:岩貞 るみこ
イラスト 尾谷おさむさん

私が中学生のときに、最初に習った英語は、
「This is a pen.」
教わった訳は、「これは、ペンです。」
「What is your name?」も、
「あなたの名前は、なんですか?」

ちがうちがう。
「これ、ペンだよ。」「名前、なんていうの?」
そう訳したほうが、自然じゃない?
もっと、日本語の訳が面白くなれば、英語はもっと面白くなるのにな。
中学生のころから、ずっとそう思っていたものです。

今回、初めて、翻訳の機会をいただきました。
しかも、だれもが一度はタイトルを聞いたことがあるであろう名作、
「名犬ラッシー」。
もちろん、私も幼いころに読んだ作品です。
大役に、身が引き締まる思いをしながらも、
さらに、たくさんのこどもたちの目にふれることを考え、
楽しく最後まで読める訳をつけてあげたいと思いました。

編集担当さんからきた、最初のオーダーは、ページ数です。
「こどもたちが読みやすい長さにまとめてほしい。」
原作を尊重しながらも、読者のことを考えての作戦でした。
そして面白いことに、私が、ページ数のことは考えずに、
とにかく、こどもたちにわかりやすい文章でと、草稿を書き上げると、
ぴったりおなじページ数になりました。

私はそんなに英語が得意ではありません。
(なので、お断りしておきますが、翻訳の仕事は、これ以上は無理です!)
なのに、なぜ私が、この本の訳を受けたのか。
それは、こどものころ、私が読んだときには感じられなかったけれど、
改めて辞書を片手に四苦八苦しながら原作を読んだときに、
この本が、ただ、ラッシーが帰ってきた、というだけではなく、
「誇りをもって、正直に、強く生きること。」
という、テーマがこめられているように思えたからです。
エリック・ナイトのこのメッセージを、伝えたい。
それが理由でした。

児童書は、英語の教科書ではないため、
100年近く前に書かれたこの本を、いまのこどもたちに受け入れてもらうため、
直訳ではなく、私なりの解釈で書かせていただきました。
細かな表現は、変わりましたが、
それでも、原作者のエリック・ナイトが伝えたかった思いは、
しっかりと、書かせていただいたつもりです。

こどもだけでなく、大人の方も、ぜひ一度、お読みいただき、
メッセージを感じていただけるとうれしいです。