「東京消防庁芝消防署24時 ーすべては命を守るためにー」(講談社) 2013年7月


カバー写真 田丸瑞穂さん
デザイン Malpu Design(清水良洋さん、佐野佳子さん)

「力、残して終わったら、後悔すんぞ!」
訓練中に、先輩隊員の口から、いろんな言葉が出てきます。
そのひとつひとつに、いちいち感動し、なんど「そのとおり!」とうなずいたことやら。
そのなかでも一番、私の心に刺さったのが、この言葉です。
要救助者を助けるチャンスは、常にいちどきりであるならば、取材のチャンスも、常にいちどきり。
あとで調べればいいや。あとで聞けばいいや。そんな甘えは許されない。
先輩隊員の言葉は後輩に向けられたものでなく、私にも、つきつけられた気がしました。
ここでふんばらなくて、どうする?
ここでやりきらなくて、どうする?
そして、いまでもときどき、足が止まりそうになる私の背中を押してくれるのです。
取材は、2012年7月から開始しました。そこから気温はぐんぐんと上昇し、8月のとんでもなく暑い日に、
「訓練開始!」の声とともにダッシュする特別救助隊の背中を追いかけていったら11階建てビルの屋上で、
直射日光と酸欠で吐きそうになりました。
取材が進むと同時に、出場する車両への同乗取材の許可をいただいたはいいものの、
いつかかるかわからない出場指令にびくついて、トイレに行くこともままならなかったり。
さらに季節は変わり、2013年1月の寒波のなかでは、終日、屋外にある訓練塔のそばでじっと過ごし、
ホカロンを背中に貼り付けてしのいだり。
ふだん、ぬくぬくとクルマのなかで過ごす生活(クルマの試乗をするのが仕事ですから!)から比べると、
かなり野性味あふれる取材現場になりました。
いえ、はっきり言うと、これが続いたらきっとカラダを壊すと思います!
でも、風邪ひとつひかずに7ヶ月間を過ごせたのは、取材が、本当に楽しくてしかたなかったから。
芝署二部大隊のみなさん、消防学校のみなさんが、私という「異物」を受け入れ、本音をたくさんみせてくれ、
納得のいく、いえ、それ以上に充実した取材をさせていただけたからにほかなりません。
本当に感謝の思いでいっぱいです。

今回は、予想外な取材の収穫量に、いざ、PCに向かったときはどれを落とすかで四苦八苦しました。
ただ、この本が児童書であり、小中学生を対象にしていることを最優先に考え、
「消防ってなに? 消防隊員ってどうしたらなれるの?」
そんな疑問に答えることを骨格に、仕上げていきました。
消防には熱心なファンが多く、スリリングな消防の活躍を期待して手に取った大人の方々には、
ちょっと期待はずれかもしれませんが、
それは、読者対象と違うからということでご容赦いただければと思います。