「ベイリー、大好き セラピードッグと小児病院のこどもたち」(小学館)2011年11月



写真 澤井秀夫さん

先天性の疾患、予期せぬ発症、そして突然の事故。
小児病院ではこどもたちが、痛みや寂しさに耐えながら毎日を送っています。
つらく繰り返される治療。変化の少ない入院生活。
そんな生活に、ほっとできる時間をつくってくれるのがベイリーです。

ベイリーは、白いゴールデンレトリーバー。
おじいさんのおじいさん、つまり五代前までさかのぼって、
既往症や体型をチェックして選ばれた、セラピードッグ一家のエリート犬です。
ハワイにある専門の施設で一年半にわたるトレーニングを受け、
病院での臨床プログラムもこなす能力のある犬。
日本に於ける、盲導犬なみに訓練された犬なのです。
アメリカの病院では、すでに常識となりつつある常駐するセラピードッグ。
こどもたちの治療に対する意識が高まり、その効果も立証されています。

そして今回、日本の小児病院にもセラピードッグをと立ち上がったのは、
自身のお子さんを長い入院生活の末に亡くされた、日本在住の米国人女性。
お子さんの名前をとった『タイラー基金』を立ち上げ、ベイリーを導入しました。
ハンドラーは小児病院の看護経験をもつ、森田優子さん。
こどもたちの笑顔のためにと、看護師をやめてハンドラーへと転身しました。

日本初のこの試みを受け入れたのは、静岡県立こども病院です。
犬がくることは、犬好きのこどもにはうれしいことですが、
その一方、院内に「犬」を入れることの不安があるのも事実。
それらを、ひとつずつていねいにとりのぞき、こどもたちの安全を確保し、
月曜から金曜まで毎日、ベイリーとこどもたちが触れ合える環境をつくりあげました。

ベイリーにふれて笑顔をみせるこどもたち。
ベイリーがいっしょにいてくれるなら、痛い治療もがんばるというこどもたち。
そんなこどもを見て、ほっとした表情になるご家族。
ベイリーが癒しているのは、こどもたちだけでなく、
その場にいるご家族や、医療スタッフなど、すべてです。
ベイリーが起こしているのは奇跡ではなく、ここにあるのは現実です。
静岡県立こども病院のたくさんの笑顔が、
この本を通じて、日本中の多くの人へとつながっていけばうれしいです。

表紙をふくめ、たくさんの写真を撮影してくださったのは写真家の澤井秀夫さん。
海賊船の船長みたいなおっかない風情の澤井さんですが、こどもたちには大人気。
もちろんベイリーも澤井さんが大好きで、みんな澤井さんの前では自由に動いています。
本のなかに収めさせていただいた、すばらしいたくさんの写真からも、
ベイリーとこどもたちがつくりだす世界をぜひ、感じてください。

* なお、澤井秀夫さんと小学館のご厚意により、
印税の一部は病気や怪我と闘うこどもたちをサポートする活動にあてられます。

** 現在、タイラー基金では、セラピードッグではなく、ファシリティドッグという呼び方を用いています。