先天性の疾患、予期せぬ発症、そして突然の事故。
小児病院ではこどもたちが、痛みや寂しさに耐えながら毎日を送っています。
つらく繰り返される治療。変化の少ない入院生活。
そんな生活に、ほっとできる時間をつくってくれるのがベイリーです。
ベイリーは、白いゴールデンレトリーバー。
おじいさんのおじいさん、つまり五代前までさかのぼって、
既往症や体型をチェックして選ばれた、セラピードッグ一家のエリート犬です。
ハワイにある専門の施設で一年半にわたるトレーニングを受け、
病院での臨床プログラムもこなす能力のある犬。
日本に於ける、盲導犬なみに訓練された犬なのです。
アメリカの病院では、すでに常識となりつつある常駐するセラピードッグ。
こどもたちの治療に対する意識が高まり、その効果も立証されています。
そして今回、日本の小児病院にもセラピードッグをと立ち上がったのは、
自身のお子さんを長い入院生活の末に亡くされた、日本在住の米国人女性。
お子さんの名前をとった『タイラー基金』を立ち上げ、ベイリーを導入しました。
ハンドラーは小児病院の看護経験をもつ、森田優子さん。
こどもたちの笑顔のためにと、看護師をやめてハンドラーへと転身しました。
日本初のこの試みを受け入れたのは、静岡県立こども病院です。
犬がくることは、犬好きのこどもにはうれしいことですが、
その一方、院内に「犬」を入れることの不安があるのも事実。
それらを、ひとつずつていねいにとりのぞき、こどもたちの安全を確保し、
月曜から金曜まで毎日、ベイリーとこどもたちが触れ合える環境をつくりあげました。
ベイリーにふれて笑顔をみせるこどもたち。
ベイリーがいっしょにいてくれるなら、痛い治療もがんばるというこどもたち。
そんなこどもを見て、ほっとした表情になるご家族。
ベイリーが癒しているのは、こどもたちだけでなく、
その場にいるご家族や、医療スタッフなど、すべてです。
ベイリーが起こしているのは奇跡ではなく、ここにあるのは現実です。
静岡県立こども病院のたくさんの笑顔が、
この本を通じて、日本中の多くの人へとつながっていけばうれしいです。
表紙をふくめ、たくさんの写真を撮影してくださったのは写真家の澤井秀夫さん。
海賊船の船長みたいなおっかない風情の澤井さんですが、こどもたちには大人気。
もちろんベイリーも澤井さんが大好きで、みんな澤井さんの前では自由に動いています。
本のなかに収めさせていただいた、すばらしいたくさんの写真からも、
ベイリーとこどもたちがつくりだす世界をぜひ、感じてください。
* なお、澤井秀夫さんと小学館のご厚意により、
印税の一部は病気や怪我と闘うこどもたちをサポートする活動にあてられます。
** 現在、タイラー基金では、セラピードッグではなく、ファシリティドッグという呼び方を用いています。